One Night, One Love

Production Note

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『One Night, One Love』の脚本を初めて読んだ時、デヴィッド・マッケンジー監督は「これはすごく面白いチャレンジになる」と興奮した。

「大規模な夏のミュージック・フェスティバルで繰り広げられるクレイジーで楽しい出来事を物語にするというアイディアは、とても魅力的だったよ。だから、どうせなら実際のフェスティバルで撮影したほうが断然いいだろうと思ったんだ。でも、撮影を初めてとんでもないことに挑戦してしまったと思ったよ。撮影期間はフェスにあわせて、たった5日間しかないんだからね」

そして、プロデューサーのジリアン・ベリーも、実際のロック・フェスでの撮影は本作に欠かせない要素だと語る。

「もし、今回のようなフィルムを普通に撮るとしたら、フェスティバルそのものを作り上げなくちゃならなくなる。ステージやテント、ショップ、それに数万人規模のエキストラなどもね。だけど〈T・イン・ザ・パーク〉はそのすべてを与えてくれた。私たちがするべきことは、ただそこへ行き、カメラを回すことだけだったの」

〈T・イン・ザ・パーク〉は毎年スコットランドで行われるイギリス最大級のロック・フェスティバルだ。2010年7月、フェスの開催にあわせて、撮影スタッフはバックステージの仕切られたエリアにテントとキャンピングカーを用意。全員がそこに滞在しながら撮影は始まった。

「実際に現場に行ってみて、〈今回は脚本のセリフに頼らずに、もっとフェスの雰囲気を取り入れるやり方で行こう〉と決めたんだ。フェスは計り知れない魅力とエネルギーを秘めているから、こちらからそこに溶け込んでいかなければならない。その感覚がすごくエキサイティングだった」(デヴィッド・マッケンジー)

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出演するキャストにとってもフェス会場での撮影は初めての体験。戸惑いもあったが、フェスの持つ開放的な雰囲気は演技の面でも良い方向に作用した。モレロを演じたナタリア・テナによると

「最初は本当に上手く行くのかどうか少し不安だったの。でも、フェスティバル会場にいる観客たちと一緒に撮影を始めた時、〈これなら大丈夫〉ってすぐに実感できたわ。最後の晩は現実と思えないほど素敵だった。日暮れ頃にフェスティバル会場を歩くシーンを撮ってたんだけど、なぜかその時はカモメの群れがあちこちで飛んでいるだけで人が誰もいなかったの。感動的な瞬間だったわ」。

一方、ザ・メイクのマネージャーのボビーを演じたギャヴィン・ミッチェルはフェスの観客との〈共演〉を楽しんだ。

「僕のキャラクターの撮影は、多くが一般の観客に混じった即興の演技だったんだ。フェスティバルのど真ん中に入って行くなんて、正直最初は少し気後れしていた。だけど実際にやってみると、そこはすごくいい感じだったんだ。酔っぱらった設定で地面に座り込んだりすると、みんな本気で心配してくれて助けてくれようとする。なかには僕を撮っているカメラを見つけ、そのクルーを怒鳴りつけてくれた男性もいたよ(笑)」

アダム役のルーク・トレダウェイやモレロ役のナタリア・テナをはじめ、映画でバンド・メンバーを演じるキャストは全員、実際に歌が歌えて楽器が演奏できることが条件で選ばれた。なかでも、ルークはデビュー作『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』でバンドのヴォーカル役を演じていたし、ナタリアは女優業のかたわらモロトフ・ジュークボックスというバンドで音楽活動をしていてロック・フェスにも参加してきた。本作の主演を務めるには、うってつけのカップルだ。

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「この映画のオーディションへ行く前、エージェントから〈とくに自分のギターを持っていく必要もないんじゃないか〉って言われていたんだ。でもオーディション会場に着いてみたら、みんなちゃんと持って来てるんだよね(笑)。マジでもう終わったと思ったよ。でも、それでも役をもらえて良かった。デビッドの映画はどれも大好きだから、彼と仕事が出来るとわかって、めちゃくちゃ嬉しかったんだ」(ルーク・トレダウェイ)

「脚本を初めて読んだ時、〈これって信じられないくらい素敵だわ!〉って思ったの。だって、多くの部分でモレロは私とそっくりだったから。それに脚本の内容もとても正確で、まさに現実のバンドの感じそのものが描写されていたわ。だからモレロ役をどうしてもやりたくて、オーディション前にスプレーで髪を赤く染めたぐらい。脚本では彼女の髪はそうなっていたのよ」(ナタリア・テナ)

そんなルークとナタリアは今回が初共演。二人はお互いの印象をこんなふうに語る。

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「ナタリアって娘はなんて言ったらいいか、新しい味のチップスを食べた時みたいな印象だった。それまで知らなかった新鮮な驚きっていうか、彼女は本当に個性的で素晴らしい女の子だよ。そんな彼女と共演するのは素晴らしい体験だった」(ルーク・トレダウェイ)

「ルークはものすごく大柄で大胆で、彼との仕事はとても楽しかった。初めて会った日には一緒に飲みに行って、それからお互いに音楽を披露しあったの。彼はギター、私はアコーディオンでね。その時すぐにわかったわ。彼となら、これからの撮影は問題なく上手くいくはずだって」(ナタリア・テナ)

音楽経験者がキャスティングされると、今度はアダムとモレロが率いる二つのバンド、ザ・メイクとダーティー・ピンクスの曲を作るための2つのチームが結成された。グラスゴーのバンド、ヴァセリンズのユージン・ケリーとプロデューサーのリコ・カプアノはザ・メイク、そして、グラスゴーのミュージシャン、ブライアン・マッカルパインはダーティー・ピンクスの曲を担当。〈T・イン・ザ・パーク〉に間に合わせるため、それぞれのチームは各バンドの個性を作り上げながら曲を書き、レコーディング作業は3週間ほどで行われた。

「最初に連絡を受けた時は〈曲を何曲か提供すればいいのかな〉と思ってたんだけど、まさかザ・メイクの全曲をプロデュースすることになるとはね。MGMTやキラーズといったバンドを参考にしたんだけど、現代風のサウンドに80年代のレトロ・ポップを加えたテイストは、まさにイマっぽい感じだよ。撮影の3週間ほど前にルークに会ったけど、彼は自分で書いた曲を演奏して、僕も自分の曲を数曲やった。そして、その後、スタジオで曲をさらに発展させていったんだ。ルークとマット(タイコ役のマシュー・ベイトン)との作業はとてもラクだったよ。彼らは音楽経験があるからね。曲のアレンジの時もいいアドバイスをたくさん出してくれた」(ユージン・ケリー)

「昼間は映画のリハーサル、夜は曲のアレンジ。毎日睡眠時間は4時間程度だったな。〈T・イン・ザ・パーク〉のメインステージでヘッドラインを飾るような世界的に有名なバンドを作り上げるという作業は、ものすごくプレッシャーのかかる不安に満ちたことだったよ。しかも、それを3週間でやるなんてチャレンジ以外の何ものでもない。でも、才能のある魅力的な人々に囲まれて作業を進めるのは最高の時間だった」(ルーク・トレダウェイ)

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またダーティー・ピンクスのライヴ・シーンでは、アダムが弾くキーボードのフレーズがきっかけになって、アダムが「流れなき愛」を歌いだし(グロリア・ジョーンズが64年に発表した曲。ソフト・セルのカヴァーで有名)、モレロと共演するシーンはロック・ファンにはたまらない演出だ。

「ダーティー・ピンクスのフェミニンなロック・サウンドを作り上げるためにブライアンと作業を続けたの。私の曲でも試してみたけど、ガールズ・バンド用にアレンジしなくちゃいけないから、コードを変えたり旋律や歌詞を書き直したわ。その他にも〈汚れなき愛〉と音が合うように書き換えなくちゃならない曲もあって大変だったけど、最終的には何とかなったと思う。モレロはとても優れた音楽的センスに恵まれているという設定だから、彼女らしさが出るように重厚な曲にする必要があったわ」(ナタリア・テナ)

また、映画には本物のミュージシャンも登場して素晴らしい演奏を聴かせてくれるが、そのうちの一人でグラスゴーのシンガー・ソングライター、ジョー・マンゴーは監督のお気に入りのシンガーだった。

「ジョー・マンゴーに歌ってもらうのは僕にとって重要なことだった。彼女は僕が大好きなシンガー、ヴァシュティ・バニアンの後継者だからね。ヴァシュティとジョーが二人で歌うライヴを見て以来、ジョーの歌に惚れ込んでしまったんだ。映画の中でジョーが歌うシーンは、映画の重要なピースになっている。濃密なドラマにホッとできるメロウな空気を吹き込んで、映画の出来事がまるで〈真夏の夜の夢〉みたいに思えるムードを醸し出している。そして、アダムとモレロはジョーの歌をそれぞれ自分なりに解釈しながら、次第に気持ちを変化させていくんだ」(デヴィッド・マッケンジー)

そして、映画のクライマックスは大観衆の前でのライヴ・シーン。フェスで撮影したからこその迫力に満ちたステージは、愛を告白するには最高の舞台だ。

「メインステージでのパフォーマンスは映画の一番のハイライトだったよ。ずっと忘れないだろうな。シーンの最後に頭に切り傷を作ってしまって、それを隠しながら演技したんだけど、その傷さえ特別なもののような気がした。ステージに立ちながら〈これはきっと僕にとってはこの先もずっとやり続けたいことなんだろうな、何千という人の前でパフォームすることが〉って感じていたんだ」(ルーク・トレダウェイ)

「大観衆の前でステージ・シーンを撮るというのは、すごい感覚だったよ。これだけの数の人々に大ブーイングを受けたりしたらどうすればいいんだ? みたいな不安もあったけど、いざステージに上がってしまえば、ただ、やり通すしかない。その瞬間瞬間に臨機応変に決断を下し、カメラを回していく醍醐味を実感させてくれたシーンだった」(デヴィッド・マッケンジー)

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無事撮影を終えて映画が完成したいま、この画期的なチャレンジをマッケンジー監督はこんなふうに振り返る。

「キャスト全員がその場に完璧に溶け込み、アドレナリンが湧き上がってくるような感じ。それは今回初めて体験した新鮮な素晴らしい出来事だった」。

もちろん、そうした一体感はナタリアも感じていた。

「現場にいる間、ずっと休むことなく撮り続けて、その場に溶け込んだ。そこにいる人々みんなと一緒に繋がっている実感があったわ。ハードなこともあったけど、それを補ってくれるほど価値のある経験だった。手錠が外れるシーンでは、ルークと離れる状態になることの方が不思議なくらいだったわ。だって、テイクの合間もずっと手錠で繋がれて、チョコバーを開けたり、煙草を吸ったり、彼と一緒に何かをやることに慣れっこになっていたから。とにかく、人生に一度しかないような貴重で素晴らしい体験になったわ」

手錠で繋がれたアダムとモレロのように、観客はライヴ感溢れる物語に導かれて登場人物たちと深く繋がる。『One Night, One Love』は、そんな一体感を感じさせる新しいタイプの音楽映画であり、ラヴストーリーなのだ。


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